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よもやま話

Short Story

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  •  2018.11.01

世に飛び交う気になる言葉-日本人が減った先には-

 かつての人口減少を俯瞰した上で、今起きている第4回目の人口減少を考えて見ましょう。

 

四回目の人口減少

 文政期(1818~1830)ごろから人口がわずかに増え始め、安政期(1854~1860)には3300万人になりました。文政期には、幕府の貨幣改鋳が行われ、3%程度のゆるいインフレ状態にあって、好景気が続きました。元禄時代に次いで、文化文政期に江戸文化が花開いたといわれますが、こうした好景気経済が背景にありました。明治の御一新を3300万人の人口で迎え、それ以降、文明開化となり、社会は大きく変化し、外国との交易が活発化しました。

 明治の終わりには5000万人の人口を達成し、江戸時代の完全自給、一国主義の非交易経済体制にあった3300万人から、50年ほどで1.5倍にも増えたことになります。明治になってからは、飢饉が起きても一国全体で食料を融通し合える国家体制になったということでしょう。

 戦後の1967年(昭和42年、明治100年)、ついに一億人を突破し、人口は増え続けましたが、90年代の経済成長率が2%程度まで落ちるにつれて、人口増加率も漸減していきました。そして、死亡数が出生数を上回る人口減少が2005年から始まります。

 今回の四番目の人口減少は、出生数の激減によるものです。戦後のベビーブームでは一年間に270万人もの赤ちゃんが生まれてきましたが、最近は100万人を割っています。平均余命は伸びて老人は死ににくくなっているにもかかわらず、総人口が減るのは、出生数が少ないからだと考えられています。出生数が少ないのは、女性が赤ちゃんを産まなくなったということ以上に、そもそもお母さんになる若い女性が少ないからです。

 社会が富裕化すれば出生数が減るのは古代ローマ社会でも見られ、一般的な現象と考えられていますが、日本で急速に出生数が減っている現状を社会の富裕化だけでは説明できないと思います。社会制度に原因があるのか、国民のマインドに原因があるのか、どこにあるのでしょう。食料不足、災害、社会動乱、疾患の大流行などの一般的な人口減少の原因は、現代日本の人口減少から除外できると思われます。

 

人口減少の文明論的な見方

これまでに日本が経験した人口減少/停滞は、社会の構造変化を惹き起こし、その前後では社会ががらりと変わりました。狩猟採集社会から稲作農耕社会へ、荘園制から在地領主制へ、完全自給・一国主義非交易経済体制から近代通商国家へと変わり、その結果、人口増加に転じることができました。

 人口減少という事態は、社会のどこかが病んでいるから起きるという考え方があるかもしれません。もしそうなら、悪いところを改善すればいいわけですから、子育て支援や保育園待機児童の減少を図る、あるいは地方自治体主導の「婚活」などの行政的改善策が打ち出されています。こうした行政的な個々の対策で出生数の増加が実現すれば、それは優れた処方だったといえるでしょう。悪いところを改善すれば、大改革は必要ないかもしれません。

 一方、人口減少は、これまでやってきた社会の何かが限界に達して、これ以上、これまでのやり方ではやっていけないという飽和のシグナルなのかもしれません。それは、今の国土において、今の社会体制が営まれ、今の国民が、今までのようなマインドでいるから人口減少が起きているという文明論的な現象であることを意味しますから、もしそうなら、個々の行政上の措置では本質的な解決につながらないでしょう。

 これまでの歴史でみたように、人口減少の後に社会のパラダイムそのものの変質が引き起こされます。あるいは、パラダイムの改革に成功して初めて人口増に転じられるということです。人口減少によって社会が変質し、その結果、人口が増えるか、やっぱり増えず、日本人がさらに減っていくのか、もはや人為的な手を小さく打ってもだめな事態なのかもしれません。

 

 たとえば、128万人(平成29年10月現在)[1]の外国人労働者がさらに増え、質の変わった社会になって初めて日本の(日本人の、ではありません)出生数が増加に転じる未来があるのかもしれません。合計特殊出生率が2.07程度になれば、その時の人口を維持できます。現在の合計特殊出生率1.44(平成28年)が2.07に上昇した後では、全く、今と異なった日本の社会になっているでしょう。

 その将来像はいろいろに想像できますが、ある記事に、2018年成人式の有様を次のように報じていました[2]

  • 今年の新成人は123万人。前年に比べて横ばいだった。
  • 一方で、新成人に占める「外国人」の割合は着実に増えている。
  • NHKによると、23区の新成人は8万3400人で、そのうち1万800人強(13%)が外国人だという。留学生の急増が背景にある。
  • 23区内で最も外国人新成人が多いのは新宿区で、およそ1790人。新成人の45.7%が外国人だという。日本語学校や専門学校、大学などが多く、外国人留学生が多いためである。
  • 次いで豊島区が1200人で38.3%、中野区が860人で27.0%だったと報じられた。
  • 外国人新成人が半数近くを占める区が現れているのである。

 

 お振袖をまとった外国人女性が成人式に参加している映像がこの記事に掲載され、私には驚きでした。第4回目の人口減少はいつ、どのレベルで底を打つのかわかりません。人口増に転じた時、日本社会は大きく変貌し、現在の社会の延長線上にはないのかもしれないことを示唆する記事ではないでしょうか。

 住宅街では、多くの人が大きな声で中国語を話し、日本語の聞こえてくることが稀な町になっているかもしれません。町角のかつてのお寺の跡地にモスクが建っている光景が普通になっているかもしれません。そうして、「かつて、この地に住んでいた日本人という民族は、結婚もせず、子も産まず、人口がどんどん減って老人ばかりになってしまったから我々が来て、立て直してやった」のだと、精気の濃い新しい住民が居酒屋で、いろいろの言語で気勢を上げている光景が広がっているのかもしれません。日本酒のように見えて、決してそうではない不思議な酒を酌み交わしながら……。

 


[1] 厚生労働省/「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成29年10月末現在)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000192073.html
[2] 日経ビジネス 「真正面」から外国人労働者を受け入れよう/磯山友幸http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/011100059/ 

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