- 2018.09.15
世に飛び交う気になる言葉-日本の赤ちゃんが減る-
学校が減るということは、子供が地域から減っているからです。この現象が日本全国で起きているようです。今回は、日本の出生数などを見ながら、どのように日本の出生数が激減してしまったのか、みたいと思います。
子供が減るということ
図は戦後日本の出生数の推移[1]ですが、いくつか際立った特徴があります。
① ベビーブームとその消長
日本の出生数のピークは、敗戦後のベビーブーム昭和24年(1949)の269万7千人です。その世代が親になって起きた第二次ベビーブームはピークの昭和48年(1973)、209万2千人の出生数を記録しました。その間24年の開きがあります。
では、第二次ベビーブームの24年後、平成9年(1997年)はどうでしょうか。ここではほとんどピークは見えず、第三次ベビーブームは現れませんでした。この世代の人数は多いにも関わらず、出生数が増えることはなかったのです。この年、すでにバブルは崩壊していましたが、平均年収はまだ高く維持され、経済的に育児は十分可能で出産意欲が高くてもよさそうなのに、出生数の目立った増加は見られなかったのです。
② 人工妊娠中絶
昭和28年(1953)から9年間連続して、届出されたものだけでも人工妊娠中絶が年間100万件を超えていました[2]。この時期、実際の出生数は150万を上回っていましたから、人口中絶がなければ、250万を超える出生数があったはずです。つまり、ベビーブームが昭和30年台半ばまで続いたということです。
③ ひのえうま(丙午)
昭和41年(1966)はひのえうまの年で、多くの夫婦が出産を避けました(合計特殊出生率1.58)。この年に生まれた女性は火のように激しく、夫を食い殺すという口碑、迷信があって、女性の縁談には悪い条件とされてきたのが原因だといわれています。
前回のひのえうまに当たる明治39年(1906)でも出生数はこの年だけ顕著に減りました。次回のひのえうまは平成38年(2026;平成でないことははっきりしていますので、新元号8年と表記すべきかもしれません)です。その時は、ひのえうまの悪しき口碑が影響力をなくしているか否か、出生数を見ればわかります。
ともかく、日本には奇妙な迷信があって、人口統計のグラフからもはっきり見てとれるほどの出生数の大変化が引き起こされるのです。
④ 政府の人口抑制への呼びかけ
昭和49年(1974)6月、『日本人口の動向』(人口問題審議会編)が発行され、人口推計の仮定としてマキシマム、メディアム、ミニマムの三通りのシナリオが発表されました[3]。ミニマムの仮定では、純再生産率[4]を0.96(当時の合計特殊出生率に換算すると2.02)に低下させれば昭和85年(2010年、平成22年に相当)までは人口増加が続き、それ以降は人口減少の相に入ると予測されていました。
実際の総人口推移を見ると、平成22年(2010)の128,057千人から、平成23年(2011)の127,834千人に減り、以後、増加に転じていません。人口減少に入る年の予測が当たったのです。
この人口白書において、「依然として世界最低のグループにある日本の出生力レベルが」あるいは「マキシマムの仮定が実現したとしても、欧米レベルの下限にようやく近づく程度である」という表現があり(それぞれP125、P126)、この時点において、白書には日本の出生力低下を危惧する筆調が読み取れます。だから出生力を増すべきだとなっていないのが、この白書の置かれた苦しい立場だったのかと想像されます。
と言うのは、白書が出た時点で、来たる8月に第三回国連世界人口会議(於ブカレスト)が予定されていました。この会議で世界人口の爆発的増加を憂慮し、各国政府が人口行動計画を策定する運びになっていました。世界全体でみると、人口増加を抑えようという動きだったのです。
そこで、当時の日本政府は、日本の出生力の減少を危惧する向きがあったにも関わらず、世界人口の増加を抑えようという国際的な方針に沿うため、7月2日~4日に第一回日本人口会議を開きました。この場で政府は国民に、避妊を普及させ、子供は二人までとしましょうと訴え、採択されました。『日本人口の動向』の副題を「静止人口をめざして」と銘打って、人口白書のタイトルを、増えもせず、減りもしない人口をめざす国の方針に整合するようにしたのです。
前年の石油ショックでは、トイレットペーパーや洗剤が品薄になる問題が起き、資源と人口のバランスの問題が国民の意識に上っていた時でもありました。
[1] 出典:厚生労働省「人口動態統計」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html
[2] 『日本人口の動向』(人口問題審議会編)巻末「国連世界人口会議対処方針についての意見」(昭和49年4月15日)第6項(P452)http://www.ipss.go.jp/history/shingikai/data/101955.pdf
[3] 同上『日本人口の動向』(P123~)
[4] 純再生産率:一人の女性が生涯に産む赤ちゃん(男女児両方)の数を粗再生産率(合計特殊出生率)といい、これを女児だけ考えて出生性比(女児:男児=100:105から106)を適応したものを総再生産率、この女児が出産年齢まで生き残る率を考慮したものを純再生産率といいます。