- 2016.06.01
キュアペプチン発見の経緯
【抗菌ペプチド・マガイニンの発見】
米国国立衛生研究所(NIH)のヒト遺伝学主任のザフロス博士は、実験のためにアフリカツメガエルの手術を毎日のように行っていましたが、特に傷口を消毒せずに飼育水中に戻しても手術跡がきれいに治って元気に生きていることに気づきました。このことを不思議に思った博士は、研究の結果アフリカツメガエルの皮膚から「マガイニン」という抗菌ペプチドを発見し、単離することに成功しました。昆虫ではこのような物質があることがわかっていましたが、脊椎動物では初めての発見でした。
【抗菌ペプチドとは】
抗菌ペプチドとは、宿主防衛ペプチドとも呼ばれる広い抗菌性を有するペプチドです。病原性細菌に対する防御機構として、植物、昆虫、両生類、哺乳類などあらゆる種類の生物で産生され、現在1200以上の抗菌ペプチドが同定されています。ヒトの場合、皮膚、口腔内、呼吸器、尿路などに抗菌ペプチドが分布しています。
上皮細胞から産生されるcathelicidin (hCAP18)は、たんぱく質分解酵素により分解されてLL-37となり、hCAP18/LL-37は皮膚の受傷時に高濃度で産生され、創傷治癒、上皮化にともなって減少していきます。また、慢性潰瘍においては、hCAP18/LL-37の産生が低下していることが報告されており、創傷治癒、皮膚疾患への関与が明らかとなっています。
【キュアペプチンの創製】
大阪大学における血管新生関連因子の遺伝子機能スクリーニングの過程にて、30個のアミノ酸からなり血管内皮細胞増殖活性を有するペプチドを発見しました。このアミノ酸配列は新規なものであり、50%以上の相同性を有する分子はなかったため、このペプチドをAG (angiogenic peptide)30と命名しました。
このペプチドをヒト大動脈由来の血管内皮細胞に添加すると、濃度に依存して細胞増殖能の増加、細胞遊走能の亢進、管腔形成の増加が認められました。
さらに、構造から抗菌ペプチドであることが予想されたため、様々な細菌に対するAG30の抗菌活性評価を試みたところ、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、さらには真菌(カンジダ)など、種々の細菌に対して抗菌活性を示すことが判りました。
このAG30をリード化合物として、コンピュータ上において算出した種々のパラメータに基づくペプチドの配列改変を展開し、抗菌活性および安定性の向上、コスト削減のためのペプチドの短鎖化などの最適化研究を行い、血管新生作用を除き、抗菌活性を向上させた抗菌ペプチド『キュアペプチン』が創生されました。
『キュアペプチン』は20アミノ酸からなるペプチドで、抗菌作用を示すほか、皮膚線維芽細胞を増殖させる働きがあります。通常抗菌物質は肌にダメージを与えるものが多いのですが、キュアペプチンは肌細胞も活性化し、かつ、自然免疫機構のような防御作用を発揮するところに特徴があります。