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よもやま話

Short Story

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  •  2018.03.01

TPPって、なあに(その3)

前回、効能・効果の作成の視点をお話しました。今回は、用法・用量についてご説明していきたいと思います。

 TPP作成の視点-用法・用量

 どんな病気のお薬を目指すのか(効能・効果)が決まれば、次は、「どのように使うお薬を目指すのか(用法・用量)」を考えることが必要です。用法・用量には次のような主な要件があります。

  • 投与経路と剤型

 効能・効果で設定した疾患にふさわしいように、たとえば、経口投与、静脈注射、経皮投与(貼付剤)、直腸投与などの投与経路と対応する剤型を選定する必要があります。生活習慣病のお薬なら、毎日飲めるように経口剤が便利ですから、錠剤なのか、カプセル剤なのか、徐放錠が必要なのか、などを考えます。

 経口剤の開発の初期では、製剤作成の簡便性から、カプセル剤を治験に用いることがありますが、最終的に錠剤を開発するなら、開発の途中で、カプセル剤と錠剤の薬物動態が変わらないこと(bio-equivalency:生物学的同等性)を示し、初期にカプセル剤投与で得られた治験データが錠剤投与であっても当てはまること(これを外挿可能性といいます)を示す必要が生じます。

 生物学的同等性が示せないなら、初期に得られたカプセル剤のデータは、それと生物学的に同等であるとは言えない錠剤を開発する時には役に立ちませんから、やり直す必要が生じるということです。生物学的同等性を示すために、健康人を対象にした第一相試験(カプセル剤投与と錠剤投与の薬物動態の比較)が必要になることもあり、慎重に計画を立てることが望まれます。

 注射剤にしても溶液を充填したバイアルとするのか、安定性の観点から用時溶解にするのかなどをデータに則して考える必要があります。その他、特殊なデバイスを用いたお薬やキット薬もあり、そのデバイス、充填容器などの課題が発生することもあります。

 データの少ない開発初期に方針を立てることは多くの場合できませんが、どのようなデータがあれば投与経路や剤型を決められるのか、というロジックの構造、デシジョンツリーだけは初期の頃から考えておきます。そうすれば、自ずとデシジョンできる時期も決まります。こうした考察もTPPに加えておきます。

  • 用量

 薬効薬理試験から疾患モデル動物における有効用量がわかり、その試験で比較した既存薬の薬理有効用量と承認されている臨床用量とを用いて、開発品の臨床用量を推測することがあります。さらに毒性試験から無毒性用量がわかり安全性を考察して、初めてヒト(健康人)に投与する第一相試験(単回投与、反復投与)の用量を決めます。第一相試験(単回投与)では4~5用量を投与し薬物動態(血中濃度の時間推移)を評価しますが、初めて患者さまに投与する第二相試験の用量を予想し、これを挟む形で下回る量から上回る量まで検討します。

 第一相試験が終われば健康人の薬物動態を知って、患者さまに初めて投与する初期第二相(P2A)試験の用量を決定します。そのとき、類似薬の臨床用量と比較したり、薬効薬理試験や毒性試験など、これまでに得られた結果を用いながら、開発候補品の臨床用量を推定します。この考察は用量設定の根拠と呼ばれ、新薬の開発では重要な考察です。この試験の結果が明らかになれば、この開発候補品の複数用量ごとの有効性を予備的に把握できるようになります。

 初期第二相試験が終われば、後期第二相(P2B)に移行しプラセボ対照用量検索二重盲検比較試験を実施し、有効性に用量相関が見られること、最大の有効性を発揮する最小の用量がわかること、開発候補品はプラセボに対し統計学的に有意な有効性が認められること、有害事象は種類、頻度、強度の面から許容できることなどの考察を経て至適用量が決められるのです。

 それ以降、第三相の二重盲検比較試験や長期安全性試験などを通し、有効性は確実なものか、長期投与しても有効性が減弱することはないか、長期投与で新たな有害事象が発現することはないかなど、さらに検討を重ね、最終的な用法・用量が決まっていきます。

 こうした用量の考察、試験で用いる用量の決定などには、多くのデータを用いた精緻な議論が必要であり、TPP、特にアノテーションでは精彩な筆勢で論述される部分です。その開発の時々において、開発チームが知恵を絞って至適用量を議論する過程で、多くの場合、開発上のリスクもあぶりだされるものです。

 たとえば、この用量設定で用量相関がみられなかったら、開発を中止すると事前に宣言して試験に着手するという場面もありえます。TPPではあらかじめ、試験結果をoptimistic、base、pessimisticの三通りくらいに想定し、それぞれのシナリオを考えて論述しておくことが、開発の焦点を明確にすることにつながります。

 試験結果が出てから初めて、次の課題を考え始めるのではなく、おおよその道筋は前もって考えておくのです。実際のデータをみて、さらに考えを深めるのは当然ですが、事前に先を見通す努力は開発のどの段階においても最善を尽くすべきで、そのためにTPPはよいツールになります。

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