- 2017.04.14
副作用を主作用にした新薬
副作用はないに越したことはありませんが、お薬の中には、副作用を主作用として新しいお薬になったものもあります。
副作用を主作用に
有害事象の中には、別の疾患の患者さまには主作用としたい症状が含まれることがあります。
たとえば、前述したように、経口降圧剤ミノキシジル(米国でLoniten錠として販売。日本では未発売)には多毛症(hypertrichosis)が副作用として知られ、体の微毛(fine body hair)が伸び(elongation)、太くなり(thickening)、色素沈着(pigmentation)が服薬患者さまの80%に発現すると米国の添付文書に書かれています。
この作用を利用し、各国で、養毛を目的としたお薬になっています。米国ではRogaine®、日本ではリアップ®(外用液剤:第一類医薬品で処方箋なしで薬店から買えます)として発売され、効能・効果は「壮年性脱毛症における発毛、育毛及び脱毛(抜け毛)の進行予防」となっています。
狭心症治療剤を目指して開発されていたシルデナフィルは第一相試験で予備的に治療効果をみたところ、芳しい成績でないため試験中止を決めました。ところが、余った治験薬を返却したがらない被験者さまがいて、その理由を確認したところ、陰茎勃起を促進する作用が初めて示唆されたという逸話が残っています。
現在ではバイアグラ錠®(医療用医薬品)として、勃起不全(満足な性行為を行うに十分な勃起とその維持が出来ない患者)という効能・効果で販売されています。その後、肺動脈性高血圧症の治療薬としてレバチオ®という商品名で販売されました。この製品は、血管拡張作用を主作用に開発したもので、もともとの狭心症を目指した開発の流れを汲むものと言えます。この製品の添付文書には、「持続勃起」が頻度不明の副作用として明記されています。
こうした例はたくさんあって、次のようなものが知られています。
ジフェンヒドラミン
もともとは抗ヒスタミン剤(風邪薬、鼻炎治療剤)の古いお薬ですが、副作用として眠気が知られていました。風邪薬を飲むと眠くなる、と広く言われるほど眠気の副作用は有名で、風邪の患者さまからは嫌われていました。
この作用を主作用にした睡眠改善剤ドリエル®が販売されています。睡眠改善薬とは、医師の処方が必要な「睡眠薬」ではなく、全国の薬局・ドラッグストアで購入でき「寝つきが悪い」、「眠りが浅い」といった一時的な不眠症状を緩和する薬です。
フスコデ
ジヒドロコデインリン酸塩とdl-メチルエフェドリン塩酸塩とクロルフェニラミンマレイン酸塩の合剤で、急性気管支炎,慢性気管支炎,感冒・上気道炎,肺炎,肺結核に伴う咳嗽を適応とする咳止めですが、副作用に便秘があります。この作用を利用して、下痢止めとして処方されることがあります。ただし、下痢の適応が認められているわけでなく、適応外使用という位置づけになりますが、知られた処方例です。副作用を主作用とした使い方の一例です。
フィナステリド
2型5-α還元酵素の作用を抑え、男性ホルモンのテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に転換されるのを抑制します。男性ホルモン作用を担うのは主にジヒドロテストステロンですから、このお薬は男性ホルモンを下げたほうがいい病気の治療剤にすることができます。
一つは、前立腺肥大症に用いられます。海外ではProscar®の商品名で販売されていますが、日本では未発売です。
もう一つは、男性型脱毛症で、男性ホルモンによって毛髪の失われるのを遅くします。効能・効果は、男性における男性型脱毛症の進行遅延です。この例は、副作用を主作用に変えたお薬ということではなく、同じ抗男性ホルモン作用を前立腺肥大と男性型脱毛症の異なる疾患に用いた例ということです。
通常、主作用のほうが低い用量で発現される必要があります。
副作用が現れる用量が高いほど、安全性が高いといえます。言い換えれば、高い用量を投与して初めて副作用がでるような薬は安全性が高いといえます。 それほど高くない用量では副作用がでないということですから。
このような場合、副作用が現れずに(少ししか現れずに)、主作用だけが現れる用量があるはずです。
ジフェンヒドラミンのように抗ヒスタミン剤として鼻粘膜でヒスタミンの作用を打ち消す用量と、中枢でヒスタミンの作用を打ち消して眠気を起こす用量が近いから、頻度高く眠気という副作用がでるのです。睡眠改善剤として用いた場合、抗ヒスタミン作用も現れていると思われますが、それが特定の症状(有害事象)に結びつかないことが重要なことです。
ミノキシジルを高血圧症に用いるときは錠剤として経口投与されますが、脱毛症に用いるときは外用液剤として頭部に塗布するため、頭部の皮膚局所の濃度は高まりますが、血中濃度は高まらず、脱毛症の患者さまで血圧低下などの循環器系の副作用が起こりにくくなっています。これは剤型を変えて副作用(この場合は血圧低下)を抑えた工夫と言えます。
このように、お薬は様々な作用を持っているため、利用したい作用と、出てほしくない作用は疾患ごとに異なります。異なる作用に応じて適応となる疾患が複数存在することになり、製薬会社の研究開発部門では、どのような病気を治す薬として、どのような剤型で開発するのか、注意深く検討されます。