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よもやま話

Short Story

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  •  2019.04.20

盲検化って、なあに?(その1)

 これまで、二重盲検比較試験を、「患者さまにいずれのお薬を飲んでいただいているのか、患者さま自身も担当医にも(二重)、わからない(盲検)ような臨床試験」と説明してきました。今回は、どのように盲検化するのかというお話をし、次回は盲検化解除(キーオープン)のプロセスについて、ご説明いたしましょう。

盲検化する意味

 比較試験では、次のような比較がよく行われます。

① 被験薬を用量間で比較する(低用量、中用量、高用量の比較)
② 被験薬をプラセボ(薬効のない偽薬)と比較する
③ 被験薬を実薬(すでに発売されているお薬)と比較する

 たとえば①と②を組み合わせると、プラセボ対照-用量検索-二重盲検比較試験となり、P2Bの開発段階に必ずと言っていいほど行われる治験です。
 ③はすでに標準的なお薬があって、その薬に比べ、よりよいお薬や特徴のあるお薬を開発する場合にP3の開発段階で実施される治験です。時には、②と組み合わされ、被験薬と実薬とプラセボで比較することもあります。

 治験では、お薬を飲んでいただいた患者さまごとに、有効性、安全性を評価してデータを集めます。このとき、患者さまが飲んでいるのがどの薬なのか、評価する担当医や、患者さまご本人にわかっていると、その方の個人的な思いに引きずられ正確に評価できないことを防ぐのが盲検化の目的です。

 たとえば、大学の先生がご自身で発見された化合物を薬にしようと治験を行う場合があります。その時、ご自身の発見された化合物には甘い評価を下し、比較しているプラセボには厳しい評価を下すかもしれません。何も、この先生が本当に、評価に手心を加えるというのではなく、手心を加えようと思えば加えられる状況で評価された結果であるということが大きな問題なのです。せっかく、厳正に評価しても、疑おうとする人がいれば、その疑念を拭うことができません。

 また患者さまも、新しいお薬だからと思い、よく効いていると思う心が働くものです。ご自身が飲んでいるのがプラセボとわかって、よく効いています、という患者さまはいないものです。しかし、盲検試験では、プラセボを飲んでよく効いている患者さまがたくさん出てきます(プラセボ効果)。

 同じように、有害事象についても、被験薬を飲んだからこの有害事象がでたと思うことが多いものですが、プラセボを飲んでも有害事象が出ることもあり、ここでも患者さま、お医者さまの主観が働く余地があります。

 患者さまの飲んでいるのがプラセボとわかっていて、有害事象がプラセボのために起きた(因果関係あり)と判定する担当医はいないものです。しかし、一般的に、盲検試験において、プラセボ群にも有害事象は多く報告され、飲んだ薬との因果関係あり、と判定されている場合も少なくありません。これは担当医が盲検下で、プラセボを飲んでいると知らないために下された判定だと思われます。

 そこで、手心を加えようと思っても加えようがない状況にするために、どの薬を飲んでいるか患者さまにも、また評価する担当医にも(二重)、わからなく(盲検)する方法を取ります。お飲みの薬が何かわからなければ、手心を加えようにも加えられないのです。このように、二重盲検で行われた試験の結果は、主観的なバイアスがかかっていないと考えられ、試験の信頼性は高まります。

盲検化の実際

 盲検試験でよく行われる盲検化の方法をお話します。プラセボ対照-用量検索-二重盲検比較試験を例にとって、P(プラセボ)、L(低用量)、M(中用量)、H(高用量)の互いに異なるお薬をどのように外観から見て区別がつかなくするのか、という方法論です。

 二重盲検用の治験薬の作り方は以前、お話した通りですが、ここでは、パッケージとラベルを用いて盲検化する方法(割り付け)をわかりやすくご説明します。

 

①何症例分を割り付けるか決めます。ここでは、400例と仮定します。

② 割り付けられる全ての治験薬に薬剤番号をふり、それがどの薬なのかという対応関係(キーコードと言います)を作ります。通常、コンピュータで乱数を発生させ、無作為になるように振り分けます。たとえば、サイコロをふる、よく切ったトランプからカードを引いて、出たマーク(ハートかダイヤかなど)で決める、という操作を思い浮かべれば分かりやすいと思います。この作業によって、たとえば、次のようなリストが出来ます。

 

※Pはプラセボ、Lは低用量、Mは中用量、Hは高用量のことです

 

 この作業は、治験担当医や開発している製薬会社から第三者性を保った人(あるいは専門の会社)が行い、リストは責任をもって秘密のまま保管しておきます。

 ここでは、4人分が一組になるような組番で割り付けた例をあげてみました(ブロック法)。これは6人分を一組にしても、8人分を一組にしてもよく、用いるお薬の種類の倍数を選びます。この例では、4種類のお薬を用いるので、4例一組にしましたが、8例一組でも構いません。400症例分を割り付けるためには、100組の4番まで作ることになります。こうすれば、病院ごとに1組4人の患者さまにお薬を飲んでいただくことができ、統計学的にバランスのとれた評価になることがわかっています。もちろん2組8人の患者さまにご参加いただいても構いません。この理屈は、ここでは詳述しません。

 ただし、2種類のお薬を比較すると言って、2人分を一組にすることはよくありません。その理由はのちほど説明します。

 4種類の異なるお薬は、別の大箱に入って準備されていますから、図のように1組の4例分をキーコードの通りP、H、L、Mと机に並べます。この段階では盲検化されていないので、お薬の種類はラベルのフラップに書かれ、どのお薬なのかわかっています。

 

 

     

    

  

    

 

 

③ 次に薬剤番号を記したラベルを治験薬本体の箱と、ラベルフラップに貼付します。
 これで、薬剤番号が二箇所に貼付され、ラベルフラップ一箇所に薬の種類が明記された治験薬が4箱揃い、キーコードの通りに割り付けられました。

④ 次にフラップを切り取ります。こうすると、本体の箱を見れば薬剤番号(組番)は分かりますが、どの薬であることは分からなくなっていることにご注意ください。
 これが盲検化です。このようになった治験薬が各病院に届けられます。当然、担当医はどの薬なのか知ることはできません。患者さまに治験に参加していただいた順にお薬を渡せば、ランダム化され盲検化された治験薬を患者さまに飲んでいただくことが出来ます。

⑤ 切り取ったフラップは、表に組番だけを明記した封筒に、一枚ずつ入れて封印します。
 この場合、400症例分400枚の封筒が必要になります。この封筒の封印を破り、中のフラップを見れば、お薬の種類と組番がわかりますから、特定した一例の盲検化を解除することができます。キーコード表を開けば全例の盲検化を解除できるのと違いがあります。

 

 今回はここまでとして、盲検化の解除は次回といたします。

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