業界よもやま話

Short story

  • 2018年8月1日

世に飛び交う気になる言葉-孤独を褒める-(その1)

 「おひとりさまの勧め」の広がり

 最近、「孤独の~」とか「~の孤独」というような題名を持つエッセイや映画や楽曲などが多くあるようです。アルコール飲料の商品名にもあります。「おひとりさま」という表現もたくさん目にします。

 孤独というものにポジティブな印象を付与し、一人はいい、一人でいればこそ、このようなことができる、一人でいると高い精神性の境地に到達できると説き、一人でいることを寂しく悲しいことだと思わず、もっと前向きに、積極的に一人でいる状態を捉え直すことが大切ではないかという論調が目立つように思います。 

 この流れと近いところにあると言ってもよいのかどうか、よくわかりませんが、これまで複数の人で行うと思われてきた活動を、おひとりさまでもできますという動きは商業的に世の中にたくさんあるようです。

 たとえば、ある遊園地の絶叫コースター(一人搭乗)、一人用キャンピングカー、おひとりさま専用情報等、ヤフーに“一人用”あるいは“おひとりさま”と打ち込んだだけでたくさんの事例がプルダウンされます。便利な世の中ですが、驚きでもあります。

 昔から、一人旅、一人酒、一人寝、映画の一人鑑賞はあったものですし、図書館は一人で行ったほうがいいに決まっています。複数でやっていいことを一人でしてはならないことはありませんから、別に、何か問題があるわけではありません。

 では、何が気になるのでしょうか?

 

 レガタムの繁栄指数 ― 日本人は社会、隣人のつながりが希薄…

 レガタムの繁栄指数(THE LEGATUM PROSPERITY INDEX™)をご紹介いたします。これは、民間投資会社レガタム社の一部門、レガタム研究所(Legatum Institute)によって開発された年次ランキング調査で、国富、経済成長、教育、健康、国民個人の幸福、生活の質など、さまざまな要素に基づいて各国を評価するものです。

 2017年の調査では149カ国がランキングされ、総合評価でノルウェーが首位、ニュージーランド、フィンランドと続き、日本は23位でした[1]。このランキングにこだわるつもりはないのですが、気になるのは日本に下された評価の内訳です。

 

経済の質 23位       (Economic Quality 23rd)
ビジネス環境 22位     (Business Environment 22nd)
統治状況 18位       (Governance 18th)
教育 18位         (Education 18th)
健康 4位          (Health 4th)
安全と治安 4位       (Safety & Security 4th)
個人の自由 46位      (Personal Freedom 46th)
社会関係資本 101位     (Social Capital 101st)
自然環境 43位       (Natural Environment 43rd)

 

 目を惹くのは、社会関係資本101位(Social Capital 101st)の項です。他の項目に比べ極端に低くなっています。いったい、これはどういうことでしょう。

 

 社会関係資本(Social capital)とは学術的な用語で、近年、一般社会でも使われるようになりましたが、まだ、普及度があまり高くないかもしれません。この件に関し、素人の私が調べて理解したところを申し上げます。

 ”Social capital”を直訳して「社会資本」とすると、ガス電気水道、電話などのライフラインや道路や交通機関、公共建物という都市基盤のハードな資本(インフラストラクチャー)を意味する語と混同されることが多いと思われます。

 そうではなく、”Social capital”とは、「信頼」「規範」「ネットワーク」などの社会的仕組み、あるいは、人間関係、地域住民の絆などを言い、たとえば、多くの友人と付き合っているか、地域のスポーツクラブのような組織に属しているか、公の問題を討議できる団体に入っているか、近所の人と雑談するかなど、「顔の見える付き合い」すべてを指すのだそうです。

 ”Social capital”を測る指標として、地域組織での活動頻度、投票率、ボランティア活動、友人や知人とのつながり、社会への信頼度などをあげる研究者もいます。”Social capital”が豊かな地域では、政治的コミットメントが拡大し、子供の教育成果が向上し、近隣の治安が向上し、地域経済が発展し、地域住民の健康状態が向上するなど、経済面、社会面において好ましい効果をもたらすとの研究があるようです[2]

 日本では誤解を招かないように「社会関係資本」という訳語が当てられます。「社会関係」という日本語によって、国民と国の関係、地域社会と住人の関係、組織と組織員の関係、家族・友人との個人的な関係と親密度などを総称して指すということです。

 日本では、大震災が起きても行列を作って支援物資を受け取り、略奪強盗が起きず、住民が助け合うお国柄という点から見ると、社会関係資本は高いように思われます。しかし、孤独死が増え、死後数ヶ月を経て異臭騒ぎによって隣人の死亡が判明したと報道される国でもあります。マンション暮らしで隣人を全く知らない人も多くいると思われます。退職後に友人を持てない人が増え、退職前でも友人関係の薄い人が増え、近隣コミュニティが何も機能せず、隣人と挨拶も交わさない、それこそ、孤独が勧められ賛美されるような風潮では、社会関係資本は低いと評価されるのかもしれません。

 

 OECDの調査 ― 日本人は人間関係がうすい……

 国際機関OECD(経済協力開発機構)の2005年調査によれば、日本において、友人、同僚、その他コミュニティの人と「ほとんど付き合わない人」の比率は15.3%でした。6~7人に一人は、コミュニティでお付き合いがない人なのです。

 この項目ではOECD加盟国の平均は6.7%で、日本の15.3%という比率は加盟国中トップでした。オランダでは2.0%、アメリカでは3.1%、ドイツでは3.5%でしたので、日本がこれらの国の2~3倍もの高比率であることが分かります。

 さらに、「友人や同僚もしくはほかの人々と時間を過ごすことのない人」という項目では、日本の男性が16.7%で21カ国の男性中、最も高かったというのです。平均値の3倍に近く、スウェーデン人男性の約1%、アメリカ人男性の約4%などと比べて顕著に高い比率でした。日本男性の6人に一人は他の人と全くお付き合いを持っていないということです[3]

 一緒にコースターで絶叫する、鉄板焼を食べる、キャンプに行く、というほど親しい友人でなくとも、短時間のおしゃべりや挨拶を交わす軽い付き合いのレベルでさえ、日本人は世界一薄いと評価されているのです。

 


[1] http://www.prosperity.com/
[2] Wikipedia ソーシャル・キャピタルhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%94%E3%82%BF%E3%83%AB
[3]  文春オンライン 岡本 純子 なぜ日本のおじさんは「世界一孤独」なのか?2018/03/08
http://bunshun.jp/articles/-/6460