業界よもやま話

Short story

  • 2018年4月15日

TPPって、なあに(その5)

 Target Product Profileにおいて、特に臨床試験の計画に関する記述は、いろいろの要件が集約されるため相当に複雑なリンケイジが形成されます。こうした異なる要素の関連付けを明らかにすることがTPPの一つの機能であるといってもよいと思います。

 「風が吹くと桶屋が儲かる」という口碑をご存知でしょうか。その意味は、

   1.大風で土ぼこりが立つ
   2.土ぼこりが目に入って、盲人が増える
   3.盲人は三味線を買う(江戸時代に盲人は三味線を弾いて生計を立てることがあった)
   4.三味線に使う猫皮が必要になり、ネコが多く殺される
   5.ネコが減るのでネズミが増える
   6.ネズミは桶をかじる
   7.桶の需要が増え桶屋が儲かる

という落とし噺です。その心は、関連性がないように見える二つの事象の間に、実は、遠い何段階もの関連があるのだということだそうです。

 新薬の開発において、あるデータから回り回って、このような臨床試験を計画しました、というように、複雑にロジックが積み重なり合って計画が立案されることがありますが、そうした時にも、TPPを使うことによって本質を効果的に伝えることができるのです。

 

 TPP作成の視点-臨床成績

 今、この場において、臨床試験を、仮に、次のように分類することを考えてみましょう。

   A) 有効性と安全性を確認し検証し、用法・用量を確立する開発本筋の治験
   B) 医療現場で実際に使用される状況に近づけた条件の許で、有効性と安全性を確認する治験
   C) 開発計画の立て方や得られたデータの特別な意味合いによって必要になった治験

 これに沿って治験を考えながら、TPPを用いて開発計画を組み上げる手法についてお話したいと思います。

 

A) 有効性と安全性を確認し検証し、用法・用量を確立する開発本筋の治験

 このグループには臨床開発の根幹を成す一連の治験が含まれます。どのような新薬開発プロジェクトでも必ず実施する治験ですから、ごく初期の開発段階からおおよその計画をTPPに書くことができるはずです。ただし、外国で実施された(あるいは、将来実施される)治験データを日本の申請に使えることも多いので、外国治験を含めて計画することが必要です。

第一相試験(P1)

  日本の申請には日本人を対象にしたP1試験が必須です。通常、健康なボランティアの方を対象に安全性と薬物動態(血中薬物濃度の時間推移)を検討します。尿中薬物濃度も測定しますから、腎排泄率がわかり腎排泄性のお薬を特定することができます。腎排泄(尿中排泄)が少なければ、胆汁排泄(胆汁→糞中排泄)の可能性が浮かびあがります。反復投与試験によって、薬物の蓄積性も、一日に何回飲めばいいのかも分かります。こうしたデータは、用法・用量、安全性、腎機能低下患者への投与方法の項などに即座に関わってきます。さらには剤形の問題にも関わることがあります。

前期第二相試験(P2A)

 初めて患者さまに投与し有効性と安全性を確認します。複数の用量を検討することによって、予備的ながら、用量ごとの臨床的有効性(ときには安全性)の見当がつきます。

 この相において、この薬が研究段階で想定したとおりの作用機作で本当にヒトで動いているのか、予備的に調べることがあります。これは臨床的有効性を評価するより、狙った作用機作が発現しているか否かを評価するほうが容易な場合、よく用いられる手法で、Proof of concept(POC、概念検証)試験と呼ばれます。

 POCはときに、プラセボを置いて複数用量の二重盲検比較試験として実施されます。臨床的な有効性がはっきり検証されないまでも、作用機作が想定通り、患者さまの体内で働いていることがわかっただけで、開発する者(会社)には開発の狙いが正しかったという大きな動機と自信になります。また逆の場合もあり、新薬の開発会社は、開発を中止しなければならないなら、早く、その決定を下すネガティブな根拠データを得たいとも思っています。

 そこで、POC試験は、狙った作用機作で効くのか否かを予測できるため、もし想定した通りでなかった場合、すぐに開発中止の判断が下しやすく、開発の最初のハードルにされることがあります。こうした判断基準を、データが出る前に決めてTPPに明記しておくことも一法です。

後期第二相試験(P2B)

 プラセボを対照に複数の用量の臨床的有効性、安全性を比較することによって至適用量を決めます。試験の開始前には、P2A試験でえられた用量ごとの有効率を用いて症例数の設定根拠を統計学的に考察することがあります。投与が終われば、プラセボに対する統計学的有意差、用量相関などを検証するために統計学を駆使します。

 TPPでは、用法・用量の項に関わり開発の核になる部分ですから、考察の限りを尽くして至適用量が論述されることになります。

第三相試験(P3)

 P2B試験で検証された至適用量を用い、既存のお薬(ときに、もう一度プラセボ)を対照薬として比較します。既存のお薬と比べ、統計学的に有意に優る有効性を示すのか、劣らないこと(非劣性/対実薬比較試験だけ)を示すのか、そのお薬のおかれた状況で目指すところが異なります。通常、この段階の試験で思いどおりのデータがでれば、試験結果をまとめて新薬の製造販売申請を行います。TPPでは、開発品の存在価値の太い柱として論述されることになります。

 

B) 医療現場で実際に使用される状況に近づけた条件の許で、有効性と安全性を確認する治験

 A) の治験は、たとえば、腎機能の低下した患者さまや、高齢の患者さまなどを組入れない試験実施計画書(プロトコール)で実施されることがあります。あるいは、併用薬にも強い制約を課して、開発薬の評価に他剤の影響が及ぶ可能性を排除しようとすることや、既往歴に制約を設けることもあります。これらは、できるだけ、均質性の高い患者さま層を対象に治験を実施し、開発薬の有効性、安全性の評価精度を上げようとする試みです。

 こうした“ピュア”な患者さま群で開発薬の有効性と安全性が精度よく見えてきたら、次は、いずれお薬の使われる実際の医療現場のように、いろいろな患者さまが含まれる層で評価します。

 たとえば、腎機能の低下した患者さまにも使われるお薬に仕上げるのなら、そのような患者さまにおける使い方を明示し、有効性、安全性を評価しておく必要があります。あるいは、A) に含まれる治験の投与期間より長い期間使ってみて、有効性が減弱することはないか、新たな有害事象が出てくることはないか、などを見ておく必要があります(長期安全性試験)。その他、実際の医療で使われる状況を想定して、予備的とは言え、開発段階で評価しておく必要があるのです。

 たとえば、別のお薬と開発薬をいっしょに使ったとき(併用)、それぞれのお薬の血中動態が変わるのか、変わらないかを調べることは重要です。こうした“飲み合わせ”は薬物相互作用(drug-drug interaction)と言われ、開発薬と他のお薬のそれぞれの薬物動態や血中濃度の変化を検討します。なんらかの変化があれば、その臨床的な影響を考察する必要があります。

 服薬中はグレープフルーツジュースを飲まないように、と注意書きされたお薬が多くあります。グレープフルーツに含まれる成分が、ある薬物代謝酵素(CYP 3A4)を阻害するため、この酵素で代謝されるお薬の分解、代謝が遅くなって、血中濃度が高くなることが知られています。もしかすると、効果が強くでたり、副作用につながったりするかもしれないと懸念してなされた注意事項なのです。グレープフルーツジュースはお薬ではありませんが、併用すると薬物動態に影響を及ぼすことで有名なものです。

 併用薬がどのように薬物動態に影響するのかを探る一連の試験もこのグループに入ります。どの国で、どのタイミングで、実施するのか、プロジェクトの状況を考えて計画することになります。TPPでは、こうしたデータによって開発品の価値を高めるように計画され、考察されることになります。

 

C) 開発計画の立て方や得られたデータの特別な意味合いによって必要になった治験

 たとえば経口剤の開発の場合、P1試験を含む初期段階の治験をカプセル剤の治験薬で実施し、その後、開発のあるタイミングで、市販予定の錠剤に切り替えるという開発計画は、しばしば見られます。カプセルなら原薬を充填すればすむので、難しい製剤工夫は不要ですが、錠剤ではそれなりの検討が必要となるため、本当に大規模な開発に踏み込む決断が下るまでは仮のカプセル剤の治験薬で開発品の検討を進めたいと考えても不思議はありません。せっかく苦労して開発品の製剤検討をやったのに、あとになって開発が中止になるような事態は避けたいからです。

 このように、開発の途中段階で治験薬の剤型を変える場合、健康人を対象にした試験で、新旧の剤型の薬物動態曲線が所定の幅の範囲内に収まり、両者間の差が十分に小さいと示すことが必要になる場合があります。薬物動態がほぼ同様(生物学的同等、バイオイクイバレント;BE)ということが言えて初めて、旧剤形の治験薬(たとえばカプセル剤)で得られた有効性、安全性のデータは新剤形(たとえば錠剤)の投与でも再現されると考えられ、新剤形を用いた治験をやり直す必要がないと認められます。

 これは、途中で剤形を変え、旧剤形で得られた臨床データをそのまま新剤形の申請に用いることができると証明するため、新たに薬物動態試験が必要になった一例です。剤形を変えず一貫して同じ剤形を使って治験をすすめれば、不要であった治験と言えます。途中で剤形を変える計画における旧剤形と新剤形のデータをつなぎ合わせるデータに相当するものです。

 もし、薬物動態試験を実施してバイオイクイバレントでないことが示されたら、旧剤形で得られた臨床データは新剤形の申請に“流用”することはできず、やり直しが必要となり、開発の上では大変なことになります。TPPでは、製剤を途中で変えず最初から市販製剤で開発するシナリオと、途中で製剤を変えて、その代わり、余分な治験を追加する開発計画上の長短について、すでに考察されていることでしょう。それを読めば、なぜこうした戦略をとったか、よくわかるはずです。これが開発のロジックであり、開発の妥当性を主張する根拠になります。

 他にも、計画の立て方や、予想しなかったデータが得られたために、必要になる治験があり、個別に、それぞれの事情や背景がありますが、例示はこのあたりにしておきましょう。