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Short story

  • 2018年4月1日

TPPって、なあに(その4)

TPP作成の視点-使用上の注意

 添付文書で【使用上の注意】に記載されるのは、次の12事項とされています[1]

1. 警告
2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
3. 効能又は効果に関連する注意
4. 用法及び用量に関連する注意
5. 重要な基本的注意
6. 特定の背景を有する患者に関する注意
  6.1 合併症・既往歴等のある患者
  6.2 腎機能障害患者
  6.3 肝機能障害患者
  6.4 生殖能を有する者
  6.5 妊婦
  6.6 授乳婦
  6.7 小児等
  6.8 高齢者
7. 相互作用
  7.1 併用禁忌(併用しないこと)
  7.2 併用注意(併用に注意すること)
8. 副作用
  8.1 重大な副作用
  8.2 その他の副作用
9. 臨床検査結果に及ぼす影響
10. 過量投与
11. 適用上の注意
12. その他の注意
12.1臨床使用に基づく情報
12.2非臨床試験に基づく情報

 

 新薬の開発では、このような事項に関し、科学的なデータに基づいて記載できるよう検討することが求められています。これらは多岐にわたり、相当に専門的ですので、今回はいくつか例を選んで、わかりやすくお話させていただきます。

 まず、「特定の背景を有する患者に関する注意」について、対象となる患者さまを既存薬の実例を参照しながら考えて見ましょう。

    • 合併症・既往歴等のある患者

     たとえば、ある炎症性の疾患(乾癬)の治療剤の中には、炎症を起こす因子(たんぱく質)の作用を抑える一群のお薬があります。たしかに炎症性疾患にはよく効くのですが、その反面、抗炎症作用のために感染症が合併した患者さまですと、感染症が悪化する懸念があります。

     特に結核を例にあげて、このお薬を使うと、既往であっても結核の活動を活発化させるおそれがあるとして、「胸部レントゲン検査等を定期的に行うなど、結核症の発現に十分に注意すること」と注意を喚起する記載事例があげられています。こうした記載は、「重要な基本的注意」にも書かれます。

     あるお薬を使う場合に、合併症や既往が安全性上、あるいは有効性上、特別の注意を要することを想定できるのなら、特定しておく必要があるということです。

     

    • 腎機能障害患者

     腎排泄性の薬剤(尿から排泄されるお薬)を腎機能障害の患者さまに使うと、薬剤の排泄が遅れ、血中の薬物濃度が高まり過ぎて、効果が強く出すぎたり有害事象が発現しやすくなります。そこで、腎機能正常者と同様の血中濃度となるように、腎機能に応じて用量を調整(減量)する場合があります。

     よく用いられるのは、腎機能を反映する臨床検査値(血清クレアチニン値、あるいはクレアチニン・クリアランスなど)を用い、その値ごとに調整(減量)された投与量を明示する手法です。これは腎機能障害の患者さまにおける適切な用法・用量といってよく、こうした調整法を示すためには、開発の段階で、相当数の腎機能障害の患者さまを対象に薬物動態(血中濃度の時間推移)を評価しておくことが必要になります。

     動物の排泄データ、健康人を対象とした第一相試験の薬物動態の結果などを見て、開発品が腎排泄性と判断できたときから、腎機能障害患者を対象とした薬物動態試験は実施計画のリストに上げておかなくてはならないでしょう。世界で開発が進む新薬なら、どのタイミングで、どの国で実施するのが効率的なのか、開発チームは熱い議論を展開するはずです。

     さらに、腎機能に応じて微妙な用量調整を行うのなら、錠やカプセルのような経口剤では調整用量に対応する力価の製剤を準備しなければなりません。割線の入った錠剤なら、割ることによって半量の錠剤の代用として使えるために、錠剤が有利と判断される場合があります。腎機能障害の患者さまのためにすることですが、何種類もの力価の製剤を取り揃えることは、製造ラインなどが複雑になるだけでなく、その影響はマーケティング部門にまで多岐にわたり、開発企業の負担が増えますから、複数部門に関わる企業決断が必要になります。
    TPP(Target Product Profile)は将来、添付文書に成長するはずの成長途中の文書で、当然、未完成です。開発の初期から、未完成であってもこれを睨んでいれば、第一相試験の結果がでた後、円滑に上のような議論につながり、開発部門以外にも状況が通じる道理です。これがTPPの効用なのです。

     

    • 生殖能を有する者

     服用時、妊娠を避けなければならないお薬に求められる記載です。かつて睡眠剤として発売されたサリドマイドというお薬が胎児に重大な障害を引き起こしたことはよく知られた悲劇です。この薬は、その後、何十年もたって、多発性骨髄腫の治療剤として承認されましたが、添付文書には、催奇形性が確認された薬であること、使用前に妊娠検査を必須とすること、避妊することなど厳格な注意が、警告、重要な基本的注意、重大な副作用、妊婦・産婦・授乳婦への投与の項に書かれてあります。サリドマイドは、この項の記載が必要なお薬の重要な例になると思います。

     

    • 高齢者

     加齢により腎機能が低下し用量を調整(減量)する必要が生ずる場合があります。あるいは、非高齢者に比べ、副作用が出やすくなる場合もあります。高齢者における有効性と安全性も開発段階で検討すべき事項であり、TPPを用いて早い段階から高齢者に対する安全な使い方を検討する計画を立てることができます。

     

     ほかにも多くの検討事項がありますが、これらは同種同効薬と比較して長所/短所につながる事項が多くあって、optimistic profileを設定できる場合がありますし、逆に、pessimistic profile を設定しなければならないこともあります。すなわち、こうであれば、同種同効薬よりはるかに優れた薬になるとか、こうであれば、開発に値しない薬と考えなければなくなるなど、お薬の特徴や存在価値に結びつくprofileに関わっています。お薬の特徴を引き出す開発は、この項の事項を念入りに考えて初めて可能になります。重要な記載事項であり、充実した記載ができるよう臨床開発を計画することは開発担当者の醍醐味でもあります。

     


    [1] 厚生労働省医薬・生活衛生局長発/薬生発0608第1号(平成29年6月8日付け)医療用薬品の添付文書 等の記載要領について https://www.pmda.go.jp/files/000218446.pdf
    これは平成 31 年4月1日から発効の予定で、従来の記載要領が変更されたものです。