業界よもやま話

Short story

  • 2017年12月15日

腎結石にまつわる社内の会話

 少し前のことですが、わが社気鋭のメンバーが尿管結石に見舞われました。休暇で遠出して遊びに行った折、突然に痛みだし、旅先で病院に搬送されたそうです。冷汗をかくほどに腹部が痛み(疝痛)、大いに苦しみましたが、受診したらピタッと痛みが消え、尿管結石の診断が下ったのだそうです。

 休暇を終えて彼がオフィスに戻ってきたとき、社内では尿管結石の話で盛り上がりました。そのうち、いくつかのお話をご紹介いたしましょう。

 

「苦味やえぐ味の強い春野菜を食べ過ぎたから尿管結石になったのではありませんか?」

 尿管結石はシュウ酸カルシウムから形成されることが多く、シュウ酸は春野菜に多く含まれることを踏まえた言葉です。

 筍やほうれん草や蕗の薹には、シュウ酸ナトリウムという水溶性の物質が多く含まれ、水溶性の状態でえぐ味の元になります。これをシュウ酸カルシウムに変えてしまえば不溶性の沈殿となって、えぐ味を感じなくて済みます。

 糠や米のとぎ汁であく抜きした筍の切り口に白い結晶が点々と付着しているのをご覧になったことがおありだと思いますが、あれが不溶化されたシュウ酸カルシウムで、糠や米のとぎ汁に含まれるカルシウムを利用したあく抜きと言えます。

 水溶性のシュウ酸ナトリウムとして摂取すると味も悪いのですが、それ以上に、血中に吸収され腎臓から始まる尿路のどこかでシュウ酸カルシウムとなって尿管で結晶化し結石となる尿管結石を引き起こします。不溶性のシュウ酸カルシウムなら、食べてもえぐ味もなく、小腸から吸収されることもなくなり、結石の危険性は低くなります。春野菜をたくさん食べれば、あく抜きしたとはいえ、シュウ酸ナトリウムの摂取がふえたのかもしれません。

 

「水や麦茶を大量に飲んで、縄跳びをすれば、尿管結石の排出が促進されるのではありませんか?」

 水分を大量にとって、尿量を増やすことによって小さな結石を流しだす方法は理にかなったことで、医師からも勧められます。縄跳びをして、小刻みに体に振動を加えれば、結石も落ちやすいという発言は、やや、冷やかしを含んでいたかもしれません。

 

「結石が排泄されたことは、どうやれば分かるでしょうか?」

 結石が排泄されれば痛みがなくなりますが、結石の位置や向きが微妙に変わっただけでも痛みがなくなることがあり、このような場合、ほんのはずみで再発する可能性が残ります。ですから、石が排泄されたことを知って安心したいと思うのは人情です。では、どうしたらいいのか、尿道口の下に茶漉しをあてがい、排尿を茶漉しで漉して丁寧に点検したらいい、という案は、さらに冷やかしを含んだ冗談だったかもしれません。当の本人は、「他人事だと思っているでしょう」と、苦笑して聞いていました。

 

「外から音波を照射し、腎臓内の石を砕いてしまえばいいではありませんか?」

 これは、体外衝撃波結石破砕術のことを言っているわけで、医学的に間違っていませんが、腎臓の中で石が砕け散る時、どういう感じなのでしょうか、と言うのは、冗談が少し過ぎたかもしれません。こんな冷やかしと冗談交じりの話が和気藹々とオフィスに飛び交ったのでした。

 

 その後、別の件で調査していたら、遊園地のジェットコースターに乗ると、腎結石の排泄が促されるという論文[1]と、それを報じたニュース記事[2][3]に出会いました。おもしろい話なので、少し研究内容をご紹介しましょう。ミシガン州立大学専門医の真面目な発表です。

    • 米国では、年間30万人以上の患者が腎結石のために緊急治療を要している。体位を変え、水補給、体壁を押す(揉む)などの方法で結石を排泄するのを促すのだが、外国(台湾)一般紙で、バンジージャンプやジェットコースターで結石が独りでに抜けたことが報道されたため、ジェットコースターの効果を検証した。アメリカでは、一生涯で腎結石に罹患するのは、男性で11%、女性で6%であり、この治療は意義深い。
    •  ここ数年にわたり、当診療科の相当数の患者がフロリダ・オーランドのディズニーランドのビッグサンダーレイルウェイ・ローラーコースターに乗ったあと、独りでに腎結石が排泄されたと報告してくれたため、検証してみることにした。
    •  尿路鏡と腎臓鏡の施行のための模擬操作用高再現模型(シミュレーター)を若干改良し、患者の腎、尿路に見立て、これを透明シリコンで再生して観察しやすくした。この腎杯・腎盂モデルに結石を詰め(上部、中部、下部)、ジェットコースターに乗ったあと、どのように動いたかを評価した。用いた結石は、容積 4.5 mm3、13.5 mm3、64.5 mm3 の三種で、もともとの腎臓の鋳型を作成するに用いられたCT尿路造影図スキャンを取った患者から独りでに排泄された結石である。
    •  ジェットコースターは、宙返り走行はしないものの、2分30秒の間に時速35 マイル(時速56 km)で急転回と急降下走行を行うタイプだった。エンジン部分の先頭には客席はなく、後ろに一両3列9座席を備えた客車5両が連結されている。3つの結石を入れた腎モデルを詰めものをしてバックパックに入れ、両端の研究者の間の席で腎臓の高さに固定した。
    •  20回、ジェットコースターに乗って、のべ60の結石を評価した。先頭から7列(3両目1列まで)に乗ったときは24結石のうち4結石(16.7 %)がモデル上、排泄とみなされた。一方、後部の13列~15列(5両目)に乗ったときは、36結石のうち23結石(63.9 %)がモデル上、排泄とみなされた。このタイプのジェットコースターの後部座席に乗れば結石の排泄が促されるという結果だった。
    •  このタイプのジェットコースターは中程度の激しさであり、結石の排泄にちょうどいいのかもしれない。宙返りのような動きをする激しいタイプでは、かえって逆効果があるかもしれない。

 このような“療法”に対し、反対する専門家もいるようですが、適切な重力を適切な方向にかけることは、結石の排泄に効果がありそうに思えました。“大量飲水縄跳び療法”もまんざらではないのかもしれません。

 


[1] Validation of a Functional Pyelocalyceal Renal Model for the Evaluation of Renal Calculi Passage While Riding a Roller Coaster. M. A. Mitchell, D. D. Wartinger, J Am Osteopath Assoc. 2016;116(10):647-652, doi:10.7556/jaoa.2016.128
http://jaoa.org/article.aspx?articleid=2557373
[2] 腎臓結石はジェットコースターで排出できる? 米研究 CNN 2016.09.29 Thu
https://www.cnn.co.jp/fringe/35089759.html
[3] 腎結石の排出にはジェットコースターに乗ると良い事が判明
http://scienceminestrone.blog.fc2.com/blog-entry-990.html