業界よもやま話

Short story

  • 2017年10月15日

後発品の光と影

 新薬の製品運命と寿命について、すでにお話ししました。独占の認められた期間が満了すると、あっという間に、ジェネリック品に置き換えられて、アメリカでは「瞬間蒸発」と言われるほど急速に市場が縮小する現実があります。さすが、世界一のジェネリック大国アメリカならでは、のことでした。日本はそうではありませんでしたが、最近、すごい勢いで欧米に近づきつつあるようです。

 日本では年々上昇を続ける医療費を抑え健康保険制度を維持するために、長期収載品(古くなってジェネリック品が出た先発品)より価格の安いジェネリック品にシフトするよう、行政的な指導、誘導を行っています。そのため、これまでジェネリック品よりは高い価格が認められ、相応の売上を上げてきた長期収載品の売上が小さくなって、大手製薬会社は長期収載品事業を別会社に売ってしまう動きが始まりました。これまでの“金の成る木”の終焉は近いと予測される現象でしょう。

 それでは、長期収載品を駆逐してしまうかもしれないジェネリック品のこれからはどうなるのでしょうか? バラ色の未来が待っているのか、それとも、そうではないのか、今日はそんなお話をいたしましょう。

 

ジェネリック品の最近の話題

 ジェネリック品に求められる重要なことは、安定供給です。ジェネリックメーカーは、新薬メーカーの何倍もの種類の製品を製造販売し、基本的に薄利多売のビジネスになります。そのため、生産ラインは少量、多品種に対応し、安定供給の体制を確立しておかなければなりません。しかも、市場では他のジェネリック品と競争するため、安く製造することが商売上、必要になります。

 薬価の引き下げは先発品だけでなく、後発品にもかかってくる圧力です。特に、後発品ではこれぞ、という特徴が付加されていればともかく、そうでないときは価格競争に巻き込まれがちです。売るためには値引きする、そうすると次回の薬価改正のときに、値引いた分が薬価引き下げに反映されるという構図です。かつて、新薬のビジネスでは、この現象を“蟻地獄”と呼んだことがありましたが、ジェネリック・ビジネスでも起こることなのです。

 また、品質確保も重要な要件です。ジェネリック品は有効性と安全性を評価する治験を実施せずに承認されたものがたくさんあります。たくさんの治験に基づき有効性、安全性のデータを蓄積して承認された先発品と(ほぼ)同じ製剤特性(生物学的に同等)だから、あらためて治験を実施する必要がない、というロジックで治験が免除されています。

 ですから、先発品と製剤特性が(ほぼ)同じという品質が確保されなければ、有効性も安全性も確認されたことにならないのです。

 あるジェネリック品を飲んで、先発品より相当高い血中濃度になってしまえば、副作用が多くでるかもしれませんが、その臨床データはありません。先発品より相当低い血中濃度になってしまえば、効き目が低くなるのかもしれませんが、その臨床データはありません。

 つまり、先発品と似たような、(ほぼ)同じ血中濃度推移になって初めて、先発品と同じような有効性、安全性が確保されていると言うことが可能になるのです。これが自ら有効性、安全性のデータを持たず承認されるジェネリック品の宿命です。

 もちろん、独自に治験を実施して豊富なデータを持てばよいのですが、それでは新薬開発と同じような時間と費用がかかり、とても採算性が確保できません。ジェネリック品とは、多くの場合、先発品の製剤特性(薬物動態/血中濃度の時間推移)と(ほぼ)同じ製剤を作り、有効性や安全性を評価する治験を実施せずに承認を得て、安い価格で行うビジネスです。

 ジェネリック品は先発品のデータの枠内にとどまるべきものですが、製剤的な工夫を凝らすことは許されています。先発品より味が良くなって飲みやすい、などの特徴を付与できれば、それは、価格が安いだけでない新たな価値を持ったお薬になるでしょう。

 

 オーソライズドジェネリックとは

 オーソライズドジェネリックとは、先発品を製造販売する製薬企業から特許権の許諾を受けて、別のメーカーが承認をえた後発医薬品のことです。オーソライズドジェネリックは最近、よく話題になりますが、次のような点で一般的なジェネリック品と違いがあります。

 

  •  原料や添加物、製造方法の許諾を先発品メーカーから得ているため、先発品と同じ製剤が作れる

 特許を参照するだけでは、製造の細かいノウハウまでわからないことが多いものです。したがって、たとえば錠剤の後発品では、血中動態がある所定の幅に入れば先発品と同じ製剤とみなすというルールで、先発品と異同を判定しますが、細かいノウハウがなければ、ピッタリ同じ特性の経口剤を作ることは、技術的に難しいものなのです。細かいノウハウまで教えてもらえれば製剤検討が不要になり、先発品と全く製剤を作れるということは、ジェネリックメーカーには、大助かりです。

 あるいは、先発品の添加剤が特許で守られていても、同じものを使用することが可能になり、先発品と同じ製剤を作れることにつながります。

 

  • 特許権の許諾を受けているため、先発品の特許切れ以前に発売が可能

 オーソライズドジェネリックは特許が満了する前に発売されるのですから、特許満了後に出る一般のジェネリックより早く、市場に出せます。それは、一般ジェネリック品より相当有利な商売が可能になります。

 

  • オーソライズドジェネリックは、先発品の独占的な市場に入りこむことを許され、先発品の市場の一部を喰います

 先発品メーカーは、先発品が市場を独占していてもいい時期に、特許を許諾しジェネリックを出すことを認めるのですから、当然、先発品の売上が減少することを予想しています。その分、特許使用料として対価を得ます。

 これまで、先発品メーカーは子会社(あるいは何らかの関係のある会社)にこの権利を許諾し、親会社の先発品メーカーと子会社の後発品メーカーの総計で考えれば得になるという戦略でやってきたようでした。

 子会社でない会社に特許を許諾する場合も、今後、増えていくかもしれません。一般的なジェネリック品はつらい環境になります。

 

 5月中旬、バイオシミラー協議会(BS協議会)は、バイオ医薬品のオーソライズドジェネリックがバイオ医薬品産業の発展を脅かす可能性があるとの懸念を表明しました。バイオシミラーというのは生物学的製剤のジェネリック品とお考えください。ジェネリックメーカーが生物学的製剤のオーソライズされたジェネリック品(バイオシミラー)にいかに脅威を感じているか、おわかりだと思います。

 

 ジェネリックメーカーの苦悩と決断

 最近、日本の大手後発品メーカーが米国の後発品メーカーを買収することで合意に達したという記事が報道されました。1300億円強の売上の会社にとって1200億円の買収はよほどの覚悟があってのことだと思われます。

 その少し前、750億円で米国の後発品メーカーを買収した日本の大手後発品メーカーもありました。いずれの会社も、日本以外に新たな成長源を持つことが急務だったと、この買収を説明しました。つまり、日本には後発品の伸びる余地がもう、あまりないのかもしれません。

 しかし、アメリカにいっても、インド系の後発品メーカーがひしめき、すごい価格競争を演じています。この勝負に巻き込まれては、日本の後発品メーカーも厳しいことになると思います。

 長期収載品は、いくら古くなったとはいえ、先発品として、安全性、有効性のデータを保持・更新するなど重要な役割を担っています。ジェネリック品は、この種のデータに依存する形で、「承認された先発品と(ほぼ)同じです、だから、効きます、安全です」という主張が受け入れられて承認されました。ですから、新たに判明した副作用などを報告してくれる大本がいなくなって困ると言う声もあります。

 現在、検討されている参照価格制度が導入されれば、長期収載品がどんどん減少するとの指摘があります。長期収載品という親亀がいなくなった後、子亀が遭遇する困難を示唆した意見で真実味があるように思います。

 健康保険の支払い(医療費)を抑えようと国も必死です。薬剤費は医療費抑制の方策のなかで最も先に狙われる標的です。これまでのように、右肩上がりに、新薬メーカー、後発品メーカーがともに業績を伸ばして来られる時代は終わってしまったのです。長期収載品も厳しい環境にありますが、後発品だって厳しいのです。