業界よもやま話

Short story

  • 2017年10月1日

新薬の製品運命と寿命(その3)

 前回は、ジェネリック品が発売された後も長期収載品がそれなりに売れて、利潤の大きな製品になっていた日本独特の医薬品市場構造をお話しました。今回は、健康保険財政の逼迫が現実的な問題となってジェネリック品を国/厚労省が推奨しはじめたという行政上の大きな動きに言及します。

 

健康保険を守るため

 厚生労働省は健康保険制度の維持を大切に考えていますから、これから高齢化が進み医療費のかさむ年齢層が増える事態に深刻な危機感を覚えています。若い人口は増えず医療費のかさむ高齢者が増える状況では、なんとか、医療費を抑えたいと考え、薬剤費抑制を念頭においています。

 そうした背景では、高価な長期収載品より安価なジェネリックを使いましょう、と盛んに唱え、その結果、随分とジェネリックが普及するようになりました。欧米で、経済的な動機から自ずとジェネリックが盛んになったのと少し異なり、日本でジェネリックを広めるには行政の後押しが必要だったということです。

 それなりにジェネリックは広まっていますが、しかし、いまだ長期収載品が医薬品市場のそれなりの部分を占めているのです。これがジェネリックに置き換われば、健康保険の薬剤費支払いも、楽になるだろうと考えられています。

 そこで厚生労働省が制定したルールは「Z2」と呼ばれ、所定の市場を占めている長期収載品の薬価を下げるように規定しました。これが、健康保険制度を守るために制度検討された一つの柱です。

 2016年4月から、政府の後発品使用目標の見直しに合わせ、長期収載品の薬価改訂(下げ)の基準が業界にとって厳しい方向に変えられました。

 「Z2」は、後発品の発売から5年以上たった長期収載品について、後発品への置き換え率に応じて薬価を引き下げるルールです。2016年度薬価制度改革では次のようになりました。

後発品への置き換え率 長期収載品の薬価下げ率
従来基準 新基準
 20%未満  30%未満 1.5%
 20%以上40%未満  30%以上50%未満 1.75%
 40%以上60%未満  50%以上70%未満 2%

 

長期収載品を切り捨てる

 こうして、長期収載品の市場はどんどん減少し始めています。ある統計によると、長期収載品の医薬品売上高に占める割合は、2013年度に33%、2014年度に29%、2015年度に27%、2016年度(上期)に23%と、4年間で10ポイントも減ってしまいました。国が後発品を推奨し、独占期間が満了して後発品が出た先発品(長期収載品)の薬価を後発品に近づけようという考えですから、この傾向はさらに進むと見られています。

 これを受けて、大手製薬企業は長期収載品の事業を別の会社に売却し始めました。最近、アステラス製薬、田辺三菱製薬、塩野義製薬、武田薬品工業、ノバルティス社、GSK社などがこうした動きに出たことが報道されました。かつてのキャッシュカウ(あるいは、金の成る木とも)は、このような政策によって、よそに売り払われることになりました。

 

おわりに

 お薬は医学の所産であり、社会制度の中で生きるものです。制度のありかたで利潤を生んだお薬も利潤を生めなくなり、商品として消え去っていきます。優れた性能をもった新しいお薬が、性能の劣る古いお薬を駆逐してしまうのは納得できることですが、性能が優れているだけでは、お薬が生き残れないこともあるのです。

 モルヒネやニトログリセリンやアトロピンは、これからも活躍できるのでしょうか? お薬の販売の社会制度に大きく依存しますが、このような百年、二百年の大スターは、本当に医学的な価値を有しているのですから、特別な制度を作ってでも生き延びていってほしいものです。