業界よもやま話

Short story

  • 2017年9月1日

新薬の製品運命と寿命(その1)

 商品にもいろいろの人生と運命があります。スーパーやコンビニの棚に並べられたのも束の間、すぐに去っていく商品もあれば、世の中に鮮やかに登場し、世相の歴史に刻まれる商品もあります。お薬も同じことで、製品として上市されても直に消えてしまうものもあれば、以前、書いたように、百年のロングセラーであり続け、国民の文化のようになった家庭薬もあります。

 今回は、承認されたあと、新薬は製品としてどのような道をたどるのかをお話し、現在、医薬品業界で起きているロングセラー商品に関わる大きな変動についてご紹介いたします。

 

新薬が新薬でなくなる時

 新薬という言葉を使って、これまでいろいろのお話を申し上げてきました。それでは新薬とは何でしょうか?新薬でない“旧薬”(こういう言葉は使われませんが……)と何がちがうのでしょうか?新薬はいつまで新薬なのでしょうか?

 新薬とは、いろいろの意味で使われる言葉かもしれませんが、ここでは、物質として初めて承認を得たばかりの新有効成分医薬品という意味でお話を進めます。新薬とは、たいていの場合、承認直後は物質特許で権利を守られ、発明した主体(製薬企業、研究所、大学、ベンチャー企業など)が独占的に販売できるお薬です。他社は、販売することが法的にできないため、特許出願者や販売者が商品の生み出す利益を独占できます。この権利は売り買いすることもでき、別の主体は、発明された新薬の特許にお金を支払い、権利行使の許諾を受けて開発、販売することもあります。

 ある国で特許が取得できれば、通常、20年間の独占期間がその国において認められます。既定の条件を満たせば5年間の延長が認められます。通常、医薬品のビジネスでは、特許が取得できて知的財産として確定されてから本格的に開発投資を行いますから、治験は物質特許の成立後に実施されるのが普通です。すなわち、開発は特許期間中に行われ、その間、販売されることはないわけですから、利益を上げられません。

 こうして開発・審査に10~15年ほどかかることを差し引けば、製薬会社が実際に新薬を独占販売できる期間はおよそ5~10年に過ぎないことになります。これは、特許が取得できた直後から販売できる商品と医薬品が大きく異なる点です。そのため、この点が考慮され、医薬品には特許期間延長が認められました。

 日本では、たとえ特許期間が満了したあとでも、新有効成分医薬品なら8年間の再審査期間が設けられ、この間は、同一成分の他社品が承認されることはないため、独占を許されます。これを先発権と称し、特許とは別の枠組みで独占が許されるということです。

 したがって、独占が許されるのは、①物質特許期間が満了するまでか、②再審査期間が終了するまでのいずれか長いほうの期間ということになり、新薬(新有効成分医薬品)であれば、特許が切れていたとしても少なくとも先発権8年間は独占販売が許されます。このいずれかの期間を過ぎれば、独占は許されず、発明者の出した特許明細書の情報をもとに、他社が同じものを製造して販売してもよいということになります。

 

 ここで、少し特許のお話をしておくと、特許には物質特許(お薬そのもの)、製法特許(作り方)、製剤特許(どのような添加剤を加えて製剤をつくるのか)などがあります。物質特許が満了しても、製法特許や製剤特許が有効の場合があります。そういうときは、別の作り方で、別の添加剤を使った新しい製剤を作れば、特許に抵触しません。それが出来ないときは、物質特許が満了していても後発品を作れないことになります。

 年限を限って独占を許し、この期間に発明者に努力対価という果実を与え、所定の期間が満了した後、発明は公共の知識として誰もが利用できるものにするというのが特許の考え方です。独占という果実を得られなければ、発明の努力をする人はいなくなるか、発明した知識を隠すようになって、公共の利益にならないからです。

 したがって、新薬とは、特許や先発権で守られたお薬ということになり、独占期間が満了した“旧薬”とは明確に異なります。つまり、独占期間が切れたその日から、新薬ではなくなります。新薬でないのなら、その物質そのもの、製造方法、用途、製剤などに関する知識は、社会のものになります。それは特許の明細書に細かく書かれてあり、誰でも見ることが出来ます。社会に智恵がまた一つ蓄積されたということなのです。