業界よもやま話

Short story

  • 2017年7月1日

予防薬と治療薬(その2)

 前回は予防薬の概念をお話しました。今回は、予防薬でありながら、治療薬にも使われる例をお示し、予防薬と治療薬の概念をさらに突き詰めてみたいと思います。

 

予防にも使う治療薬

 予防薬と治療薬の違いをお話してきましたが、予防にも使う治療薬があります。抗ウイルス薬という一群のお薬(ワクチンではありません)はウイルスの増殖を抑えます。このお薬は治療薬として、ウイルス感染症に罹ってから使うと、治るまでの時間を短くします。

 たとえば、タミフルという抗インフルエンザウイルス剤の添付文書を見ると、インフルエンザの罹病期間(中央値)は、タミフルを飲んだ患者さん122人の群では70.0時間、プラセボを飲んだ130人の患者さまの群では93.3時間で、両群の間に統計学的有意差があると記載されています。これはタミフルを5日間飲んだ二重盲検比較試験から得られた治療効果の結果です。

 すなわち、インフルエンザが治るまで、お薬を飲まなければ93時間(4日間)かかるのに、タミフルを飲めば70時間(3日間)ですむということです。もちろん、一人一人の患者さまでは、もっと早く治る人、もっと長くかかる人がたくさんいらっしゃいますが、この値は試験に参加された患者さまの集団において、直るまでの時間をおしなべて言ったもの(中央値)です。タミフルは罹ったインフルエンザを早く治すという治療薬なのです。

 その意味で、普通は、インフルエンザに罹ってもいないうちから飲むお薬ではないと思われることでしょう。

 ところが、タミフルはじめ、リレンザ、イナビルのような抗インフルエンザウイルス剤では、予防的な使い方が認められています。タミフルの添付文書には、次のような人(まだインフルエンザに罹っていない方々です)が飲んでもよいと承認されています。

 

原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする。

  (1) 高齢者(65 歳以上)
  (2) 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
  (3) 代謝性疾患患者(糖尿病等)
  (4) 腎機能障害患者

 

 このような方々は、同居者からインフルエンザが感染(うつ)りやすく、うつれば重篤になるとみなされているのです。タミフルを飲んでいれば、同居者のインフルエンザウイルスが体内に侵入しても、増殖を抑えられ発症に至らない(罹りにくい)ということなのです。

 添付文書を見ると、インフルエンザの発症率は、タミフルを飲んだ方(インフルエンザ患者ではありません)155人の群では1.3%(2人)、プラセボを飲んだ153人の方の群では8.5%(13人)で、両群の間に統計学的有意差があることが分かります。これは42日間タミフルを飲んだ二重盲検比較試験から得られた予防効果の結果です。インフルエンザに罹りやすく、罹ると重篤になるような限定された方々には、抗インフルエンザウイルス薬の予防投与は認められた療法なのです。

 

 しかし、この療法には治療投与と大きな違いがあります。それは、添付文書の上では、予防目的で使用した場合、7~10 日間の服用とされ(治験では42日間の投与でしたが)、治療投与の5日間より長い投与期間が設定されています。

 さらに、お薬代は保険給付されず、全額、自費負担になるということです。片頭痛の発作予防の適応が承認されていれば保険適応になったデパケンとインデラルの例や、ワーファリンの例とは、保険適応の扱いが少し異なるように見えます。

 現在、インフルエンザワクチンは任意接種ですから保険の対象ではなく、全額自己負担です(勤務先の健保が負担してくれるところもありますが)。また、65歳以上の人と60~64歳のある特定の人は定期接種といって国が強く勧めているので、自治体から補助が出ることもありますが、いずれにせよ健康保険の対象ではありません。このように抗インフルエンザウイルス薬の予防投与が保険適応でないことは、ワクチン行政とも整合をとるためかもしれません。