業界よもやま話

Short story

  • 2017年3月15日

副作用と主作用(その1)

 今回から二回にわたり、主作用と副作用のお話をいたします。新しいお薬は、十分な薬効と安全性が確認されて初めて承認されるのですから、患者さまにおいて、主作用と副作用を丁寧に観察し、解折することは新薬開発の本質といってよいかと思います。

 

主作用とは

 主作用は薬効そのものであり、お薬に期待される作用です。たとえば、高血圧症治療剤では降圧(血圧低下)作用を、高コレステロール血症治療剤ではコレステロール低下作用を、鎮痛解熱剤では鎮痛作用、体温低下作用が主作用に当たります。この作用が発揮される背景にどのような機序が働いているのか、解明することは非臨床研究の大きなテーマの一つです。
 たとえば、ある特定の酵素を阻害するとか、レセプター(受容体)を阻害するとか、多くの薬物の作用機序(mode of action)が知られています。逆に、この酵素、この受容体を阻害すれば、このような作用が生まれるはずだと考えられるようになり、作用機序の研究は新薬創製にはとても重要なことです。

 

有害事象とは

 治験薬を服用している最中に、時には服用を止めた後でも、患者さまにとって好ましくないことが起きることがあります。これは、治験薬のために起きたのか、治験薬とは別の要因でおきたのかを問わず、とにかく悪いことが起きたら有害事象とします。

厚生労働省から出された指針[1]では、有害事象とは、治験薬又は製造販売後臨床試験薬を投与された被験者に生じたすべての疾患又はその徴候をいう、と定義されています。

 ただ、好ましくないことと言っても、悪いことなのか良いことなのか、分かりにくいことがあります。たとえば、かつてある降圧剤の治験で、「多毛」という有害事象が報告されたことがありました。「多毛」を嫌う患者さまには好ましくないことかもしれませんが、髪が薄くて悩んでいた患者さまがいたとすれば、良いことだったかもしれません。

 この例のように、好ましくないこと、好ましいこととは、患者さまによって異なる場合があるかもしれませんが、高血圧症の治療を期待して服用した治験薬にとって、「多毛」という期待していなかった作用が発現すれば、有害事象とされます。仮に「多毛」がでて喜んだ患者さまがいたとしても、それは、高血圧症の患者さまを対象にした試験では「多毛」を有害事象とカウントするのが普通です。

 また、患者さまが、服用後、病気がすっきり治り、気分爽快、また服用したいほどだ、という気持ちになったとします。これは、依存性につながる可能性があると考え、やはり好ましくないこととして有害事象にカウントします。しかし、痛みがとれ、熱が下がって気分が治り快調になったという患者さまとどう違うのか、などちょっと考えただけでは区別がむずかしい場合もあります。病気が治って気分が通常に回復し爽快になったということが患者さまから報告されたとしても、普通は、有害事象にはカウントしません。このあたりは医師の判断の領域です。

 特殊な例をあげれば、さまざまな場合があって個別に考えることになりますが、各論はともかく、一般的には、治験薬との因果関係の有無を問わず、好ましくないこと、通常と異なることが起これば、これを有害事象と数えます。

 


 因果関係を見極めるには時間のかかることが多く、因果関係の有無を問わずに有害事象のデータを収集することは、患者さまの安全性を第一に考えるためです。因果関係がよくわからないと言って報告に時間がかかり、治験において別の患者さまに同じ有害事象がでてしまうよりは、因果関係がないかもしれない有害事象までを速やかに報告し注意を喚起したほうが、患者さまの安全性確保には好ましいとの考え方に基づきます。

 多くの患者さまのデータを集めることによって、有害事象の意味合いがはっきりとし、因果関係の有無が明らかになることがあるため、安全性のデータは因果関係のよくわからないものを含め、広く収集するのが原則です。


[1] 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンス(平成24年12月28日付、厚生労働省医薬食品局審査管理課長発)第2条20項