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Short story

  • 2017年1月15日

治験にまつわる実際の話(2)二重盲検試験用の治験薬が作りにくい場合(その1)

前回には、二重盲検用の治験薬はどの様なものかをお話しました。今回は、二重盲検にしにくい場合を考えて見ます。

 

ケース1(代謝物)

 私的な経験をご紹介いたします。ある治験で、外観の同じ治験薬は問題なく作れたのですが、被験薬の代謝物が蛍光を帯びた強い黄色で、かつ尿中に排泄される薬物の治験に携わったことがあります。

その結果、被験薬を飲んだ患者様の尿は強く黄色を帯び、それだけでなく、下着が黄染するほどでした。治験担当医が尿を見たり、下着を確認するような治験ではなかったので、患者様が訴えなければ、尿が濃い黄色に着色したということを知らずにいられます。

しかし、何かの拍子に、このことを患者様から聞けば、治験担当医は患者さまが被験薬を飲んでいることを強く推定でき、二重盲検性が保証できなくなることを心配しました。

 味はカプセルや錠剤によって、直接、知覚されることを防ぐ手段がありますから問題にはなりませんが、被験薬が特別な臭気を持っていたり、尿中代謝物が特別の色調を帯びていたりすると、治験薬の外観は同じでも、服用した薬剤の盲検性が保証できなくなる恐れがあります。

 

 では唾液中に代謝物が分泌され、口中が苦くなるという治験薬や、あるいは、特殊な副作用として、たとえば爪に蓄積して線上に見える治験薬があったとして、それは、やはり二重盲検性が破れるということでしょうか?

 同じように、有効性の点からも二重盲検性が保証できなくなるのではないかと心配される場合があるかもしれません。これまでほとんど薬が効かなかった疾患に非常によく効く開発品が出てきて、治験薬を飲んだらよく治ったので、これは被験薬を飲んだに違いない、と思いたくなるような場合です。

 結論から言うと、有効性、安全性の点で、プラセボにあるいは既存薬に明らかに優る被験薬があったとしても、それは二重盲検性を破ることにはなりません。劇的に効く薬、大きく副作用が減った薬は、その薬の長所として特徴が表れたものであり、それこそ二重盲検で検証すべきことだと考えられます。

 もちろん、その逆に、あまり問題にはならないが特殊な副作用がでる治験薬でも盲検性が破れるとは考えません。有効性、安全性の際立った特徴が盲検性を危うくするものではありません。臭気、代謝物などの際立った特徴は薬の有効性、安全性以外の特性であり、この観点での違いは盲検性を危うくする可能性があります。

 

 では、先の話にもどり、尿に蛍光の黄色代謝物がでる治験薬ではどう対処したか、お話したいと思います。

 理論的には、たとえばプラセボにも尿を黄色くする物質を混ぜるなどの手段はありえましたが、結論から言うと、何もしませんでした。

 ただ、会社の治験担当者が担当医に、下着が黄色くなるという訴えを患者様から聞きませんでしたか?という質問は決してしないようにしました。結局、この治験薬は開発に成功せず、この点を当局から質問される機会がありませんでした。しかし、当局が、この試験は二重盲検と認めないという立場をとったとしても、ではどのように二重盲検にするのか解はなく、二重盲検にしなくてもよい、という判断を下す可能性が高いと考えられます。

 上述のように、プラセボにも尿を黄色くする添加剤を加えればよい、という手段も完全な二重盲検を保証するとは言えず、では、その尿を黄色くする添加剤の薬理効果はないのか、などと被験薬の開発と本質的に異なる話が必要になりますから、そこまで厳しく求められることはないと思われます。二重盲検にできない場合もあるということは認められる考え方です。

 一般論を申し上げると、二重盲検試験と称しても、実はよくわからないところで盲検性が危うい試験もあり、専門家の立場として盲検性が維持されたかはよくよく注意しなければならないところです。可能なのに盲検性を十分に確保しないことはよくありませんが、完全な盲検性が難しいのなら、その理由をきちんと説明することが重要です。